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コラム

業務の棚卸しの進め方——何をシステム化すべきかを決める手順

この記事の要点

  • 棚卸しの目的は業務の一覧を作ることではなく、どれを先に手当てするかを決めることです
  • 粒度を細かくしすぎると終わりません。「名前がついている作業」の単位で十分です
  • 優先順位は、年間の総時間と、止まったときの影響で決まります

棚卸しは何のためにやるのか

システム化を考え始めたとき、最初にぶつかるのは「そもそも何から手をつけるべきか」という問題です。困っている業務はいくつもあり、どれも重要に見えます。この状態で見積もりを取っても、比べるための基準がないため判断できません。

業務の棚卸しは、この判断材料を作る作業です。目的は、業務の完全な一覧を作ることではありません。「どれを先に手当てするか」を決めることです。

この違いは重要です。一覧を作ることが目的になると、網羅性を求めてしまいます。全部署の全業務を、詳細な業務フロー図に起こす——そうして数か月かけた立派な資料が完成したころには、聞き取った内容のほうが古くなっています。実際、この段階で力尽きてしまう会社は少なくありません。

決めるための材料が揃えば、棚卸しはそこで終わりです。完璧である必要はありません。

どの粒度で書き出せばよいか

最初に決めるべきは粒度です。ここを間違えると作業が終わりません。

細かくしすぎる例を挙げます。「請求書を発行する」という業務を、「取引先マスタを開く」「先月の実績を確認する」「金額を入力する」「上長に確認する」「印刷する」「封入する」……と分解していくと、一つの業務から二十以上の項目が出てきます。これを全業務でやれば、数百行の表ができあがり、そして誰も読みません。

目安は、社内で名前がついて呼ばれている作業の単位です。「請求書発行」「月次集計」「問い合わせ対応の記録」「シフト作成」。この粒度であれば、一部署あたり十数個から二十個程度に収まります。

判断に迷ったら、「その言葉で他の社員に伝わるか」を基準にしてください。「請求書発行、お願いします」で通じるなら、それが適切な単位です。

書き出す道具は、Excelやスプレッドシートで十分です。列は「作業名/担当/頻度/1回あたりの時間/使っている道具」の五つで足ります。専用のツールを検討し始めると、それ自体が別のプロジェクトになってしまいます。

誰に何を聞くか

実際に手を動かしている人に聞く

管理職に聞くと、業務の全体像は分かりますが、実際にかかっている時間は分かりません。どこに時間が消えているかを正確に知っているのは、その作業をしている本人だけです。「あの作業、実は毎回30分くらいかかってるんです」という情報は、担当者からしか出てきません。

聞くのは四つで十分

一人あたり30分ほどの時間をもらい、次の四つを聞きます。

  1. 作業の名前——社内で呼ばれているとおりの言い方で
  2. 頻度——毎日か、週に何回か、月に何回か
  3. 1回あたりの時間——正確でなくて構いません。「だいたい30分」で十分です
  4. 使っている道具——Excel、紙、既存システム、メールなど

四つ目は特に重要です。ここで、正規のシステムではないもの——自作のExcelマクロや、個人が導入したツール——が出てくることがあります。この扱いについては「「野良システム」とは何か」で詳しく書いています。

「困っていること」から聞かない

最初に「何か困っていることはありますか」と聞きたくなりますが、これは後回しにしてください。

理由は二つあります。一つは、いきなり聞くと不満の話になりやすく、事実の把握が進まないこと。もう一つは、逆に遠慮して「特にありません」と言われてしまうことです。どちらに転んでも、判断材料は集まりません。

先に四つの事実を聞き、数字が並んでから「この作業、月に10時間くらい使っている計算になりますが、実感と合っていますか」と尋ねる。この順番だと、具体的な話が出てきます。

優先順位はどうつけるか

聞き取りが終わったら、まず頻度 × 1回あたりの時間で、年間の総時間を出します。

たとえば、1回30分の作業が週に5回あるとします。1週間で2.5時間、年間の稼働を50週とすれば125時間です。3営業日分を超える計算になります。1回30分という数字だけを見ているときには、この重さは見えません。

この計算をすると、多くの場合意外な業務が上位に来ます。誰も「大変だ」と言っていない、地味な作業が実は年間で最も時間を使っている、ということが起こります。声の大きさや不満の量ではなく、数字で並べることの意味はここにあります。

次に、この一覧へ二つの観点を重ねます。

  • 止まったときの影響——その作業が1週間できなくなったら、何が起きるか。出荷が止まる、請求が出せない、といった業務は、時間が短くても優先度が上がります
  • 属人度——その作業ができる人が何人いるか。一人しかいない業務は、その人が休んだ時点で止まります

年間時間が長く、止まると業務が止まり、担当者が一人。この三つが重なっているものが、最優先の候補です。

順位が決まったら、聞き取った相手に見せる

一覧ができたら、協力してくれた担当者にそのまま見せてください。二つの効果があります。

一つは、事実の誤りが見つかることです。「この作業は去年からやっていません」「頻度はもっと多いです」といった訂正は、当事者からしか出てきません。

もう一つは、納得感が生まれることです。自分が答えた内容が数字になり、順位の根拠として並んでいる。この過程を見ていると、後で「なぜあの業務が後回しなのか」という話になりません。システム化は現場の協力なしには進まないため、この段階での合意は後の工程を大きく楽にします。

棚卸しで見えてくるもの

この作業をすると、システム化とは別の発見が出てきます。むしろ、こちらのほうが早く効果が出ることもあります。

一つは、同じデータを二度入力している業務です。ある部署が入力した内容を、別の部署が別の表に転記している。棚卸しをすると、部署をまたいだこうした重複が見えます。担当者はそれぞれ自分の作業しか見えていないため、当人たちは気づいていないことがほとんどです。

もう一つは、誰も使っていない作業です。毎月作っている集計表を、誰も見ていない。以前は必要だったが、今は参照されていない。「この資料、どなたが使っていますか」と聞いて、答えが出てこない業務は、やめる候補です。

システム化する前に「やめる」「減らす」の判断ができれば、開発の費用も期間も減ります。棚卸しの最も分かりやすい成果はここかもしれません。

どこで終わりにするか

全社の全業務を洗い出す必要はありません。手当てすべき候補が二つか三つ浮かんだ時点で、棚卸しは目的を果たしています。

その候補について、より詳しく——具体的な手順、扱うデータ、関わる人——を掘り下げる段階に進んでください。全体を薄く広く調べ続けるより、絞った対象を深く見るほうが、次の判断につながります。

なお、候補に挙がった業務がExcelで管理されている場合、そもそもシステム化すべきかどうかの判断が必要になります。その判断材料は「Excelでの業務管理はどこまで可能か」に整理しています。

よくある質問

棚卸しにはどのくらいの期間をかけるべきですか?
目安は2週間から1か月です。それ以上かけると、聞き取った内容のほうが先に古くなります。期間を決めずに始めると、たいてい途中で止まります。最初に「いつまでに、どこまでやるか」を決めてから着手してください。
現場が忙しくて協力が得られない場合はどうすればよいですか?
目的の伝え方を変えてみてください。「業務を整理したい」では自分の仕事が増える話に聞こえます。「時間がかかっている作業を減らしたいので、どこに時間を使っているか教えてほしい」であれば、相手にとっての利益が明確です。また、一度に全部署ではなく、協力が得られる一部署から始めるのも有効です。
業務フロー図は作ったほうがよいですか?
棚卸しの段階では不要です。フロー図は、システム化する業務を決めた後に、その業務だけ作れば足ります。最初から全業務のフロー図を作ろうとすると、それ自体が数か月の作業になり、完成する前に力尽きます。